真ちゃんはあまり話さない。話さない、というのは、どうでもいい話のことを自分から話さないということだ。 疑問や興味をもったこととかは自分から話すけど、どうでもいい話はしない。 でも俺は、くだらなくて、どうでもいい話こそが大事なんじゃないかと思う。真剣な話ももちろん大事だけど、これから長くいるのなら、どんな話でもできるような仲の方が、楽しいじゃんって思う。 あとは、真ちゃんが今まで出会ったことのないようなタイプの人間だから、単純にどんな人間か知りたいっていうのもある。もしかしたらそれが一番大きいから、くだらない話を俺が持ち出すのかもしれない。 真面目なところも、努力をしているところも、見ていれば分かるから、意外性っていうか、そんなの好きだったんだとか、嫌いだったんだ、とか、そういうことを知りたいと思う。

「真ちゃんはどんなこどもだった?」
「何なのだよ、急に」
「それみて気になって。こいつどうしたの?」
「ずいぶん昔に貰ったのだよ」

今日のラッキーアイテムは恐竜のぬいぐるみだ。座っていても目立つのに、机と真ちゃんの体の間には恐竜が膝の上に座っている。ずいぶん昔と言われたわりには(っていうか高校生がずいぶんむかしっておかしーだろ)、恐竜くんは汚れひとつついていない。 恐竜を学校に連れてくるとか、周りからみたら頭のおかしい男子高校生にみえると思う。俺は全然気にしないし、慣れちゃったけど、 クラスの奴らも今日は何だと一日の楽しみなんかにしてるし、廊下を通ったやつもチラっと見てはもう一度こちらを見る。確かに教室に色々持ち込んでるやつがいたら目立つだろうし、 俺も知り合いじゃなかったら、笑い話にでもしてるだろう。恐竜のぬいぐるみは真ちゃんと同じ髪の色をしている。背びれは黄色で、開いた口からは白い牙が覗いている。恐竜といっても、全く怖くない見た目だから、本当にこども向けって感じだ。
「俺さ、超典型的なこども!って感じのこどもだったんだけど。真ちゃんの小さい頃って想像つかないってゆーか」
「お前に話す必要なんてないのだよ」
「そういわないでさっ、減るもんじゃないし、いいっしょ?」

戦隊もののベルトも欲しがったし、車も好きだった。光る剣だって好きだったし、なんちゃらヨーヨーっていうのも買った気がする。どれもあんまり真ちゃんには似合わない。 もし真ちゃんが戦隊もののベルト欲しがって泣いてたっていうエピソードがあるなら、俺は三日は笑い転げられるね。考えただけでも、笑いそうになるので口元を抑えると、 真ちゃんは嫌そうな顔をして顔を背けた。

「戦隊ものは?なんとかレンジャーとか見てた?」
「あまりそういうのには興味がなかったのだよ」
「アニメとかは?」
「ラッキーアイテムで買ったことはあるが、見たことはないな」

まあ、真ちゃんがアニメを見ているイメージもあまりない。
「ん?てことはアニメグッズはあるってことっしょ。俺、真ちゃんの部屋が気になるわー」
信楽焼に恐竜のぬいぐるみ、ペンギンのぬいぐるみに、だるま、今までいろんなものを見てきたけど、そいつらは真ちゃんの部屋に並んでるってわけだ。 ベッドの横にぬいぐるみがいっぱい並んでたら、笑える。ほほえましすぎて笑える。たくさんのぬいぐるみたちが、真ちゃんに選ばれるのを毎日待ってる。 なんだか可愛い光景すぎないか、それ。まずいまずい、笑うのは我慢っと。
「よし、今度部屋行かせてよ」
「断る」
「別に散らかしたりしねーよ?部屋見たいだけだって」
「絶対に何かよくないことが起きるということは確かなのだよ」
ちぇっ。つまんねーの。そりゃ言ったら何があるかとか探ったりはするけど。机の引き出しとかあけちゃったりとかしてさ。日記とか出てきたらそっとしまうって判断はすぐにはできない。見るか見ないか絶対迷うもん。
「話し戻すけど、小さい頃は、真面目で習いごととかもいっぱいしてた感じっしょ?」
「勉強も習い事は嫌いではなかったからな」
「だろうねー」
じゃあこの恐竜くんも長い間構ってもらえなかったわけか。可哀想に。
「真ちゃん、それ貸して」
「お前が持つと運気が下がるのだよ」
「下がらないって!」
膝の上のぬいぐるみを抱き上げると、フェルトみたいな生地で、思ってたよりも、もこもこしてた。 胴体をもって顔の前に掲げてみると、円らな瞳と目があった。
「恐竜とか、ロボットとか、そういうの結構はまったなー」
流行りのものはとりあえずどんなものか見る。欲しかったら小遣いためて買う。そういえば色んなものに手をだしてたな。
「こいつかわいいなー。こういうの好きだったわ」
ぎゅっとしっぽを掴んでみる。綿の感触が気持ちよくて、何度か繰り返すと、真ちゃんが、乱暴に扱うなよと手を伸ばしてくる。 持ち歩かれるだけじゃ、ぬいぐるみだって寂しがるから、俺は可愛がってあげてるんだ!
恐竜の向きを反対にして、円らな瞳を真ちゃんの目線に合わせる。
「しんちゃん、そんなこわいかおしちゃだめだよ!」
「また馬鹿な真似を…」
「たまにはぼくにもはなしかけてくれないと、さみしいよ!」
「ぬいぐるみに話しかけてもしょうがないだろう」
「そんなこといったら、かずなりくんも、かなしいって!」
恐竜の顔を俺の方に向けて、ねーっと言ってみせると、フっと笑う声が聞こえた。
「よっしゃ、笑った!」
「嘲笑なのだよ」
「…ですよねー」
「俺が話しかけなくても勝手にお前が話すだろう」
「まぁね〜そうだけどさ」
「それに俺が答えればいいだけなのだよ。それさえすれば会話は成り立つし、お前のこともよりわかるのだから」
なんだそんな風に思ってたの。素直なのに分かりにくいとか面倒なんだけど。でも、まぁ、俺だし?そこも汲み取れちゃうんだけどさ。
「真ちゃんってすげえわ!」
言葉だけにするのは惜しくて、勢いあまって恐竜を両手でプレスしたら「運気が潰れるのだよ!」って騒ぐから、今度は笑うのを我慢しないで思い切り笑ってやった。 やっぱりまだまだ知らないことだらけだけど、俺達は、過去も、今も、これからの話も、なんだって出来るんだし。とりあえず笑っとこう。


20120922 おもちゃ箱をみせて