くだらない話をしよう(黒子と火神)

昼休み、座席の移動も面倒なので黒子と火神は元の席のまま揃って昼食を食べる。黒子は前を向いたまま、 火神は椅子の背を窓に向け、一応黒子と対話はできるような形にはする。 それでも二人が会話を交わすことはあまりなく、女子の高い声や、男子の笑い声に囲まれながら二人はただひたすら食べることに集中する。
「相変わらずよく食べますね」
「お前毎日言ってないか。ていうかお前はそれで足りんのかよ」
「火神くんも毎日同じこと言ってますよ」
ジャムパンを口に詰め込む火神を見ながら、そんな毎日変わった話なんてできないのでは、と黒子は思う。
「昔からよく食べてたんですか?」
「俺にとってはこれがふつーだよ、ふつー」
「火神くんの食べる量は普通ではないとは思いますけど。…遠足とか大変だったでしょう?」
遠足ねぇ、と火神は日本に居た頃を思い出してるようだった。
「まぁなんとかなってたけどな。遠足とか懐かしいなー。お菓子500円までとかあったな」
「計算が面倒になって大きいお菓子買うタイプですね」
「うるせぇ!」
「あ、当たりましたか」
「色んなやつからもらえたからいいんだよ」
火神は付き合いが上手だったろうと思う。明るいし、スポーツもよくできただろうし、小学生であれば、クラスの中でも目立つ存在になるだろう。
「3つガムがあって1個食べたら酸っぱいやつとかありませんでした?」
「あー、女子がくれて、俺全部貰えると思ってさ。3つまとめて食って怒られた」
そういえばよく中学の頃はこんなお菓子の話を紫原とよくしたな、と思いだした。 あのお菓子最近見かけないですねえと言うと、じゃあ探してみる!と張り切って紫原は探していた。
「懐かしいですねえ」
「そうだなあ」
お互い思い出していることは違うだろうけれど、そんなことは構わない。そういえば、と次の話を切り出そうとすると 全てのパンを食べ終えた火神の首がかくん、と揺れた。この風景も思い出す日がくるかもしれない。高校生活なんてあっという間なのだろうなと思いながら黒子も瞼を閉じた。


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甘いにおいは誰のもの(紫原と氷室)

午前の練習、午後のミーティング、というスケジュールになるときまって、敦はミーティング中にすやすやと眠りについてしまう。 一度寝かさないためにどうするかという話し合いに発展したので、燻製いかを食べさせるのはどうですかと提案してみた。 噛み続ける必要があるから、我ながら良い案だと思ったのに、却下されてしまった。そして、今日も敦は幸せそうに眠っている。 すやすやと眠りの世界に旅立っていた敦を起こそうと体を揺らしても、起きない。そもそも体をなかなか揺らせない。画面の傍とホワイトボードの傍を行ったり来たりしながら監督は熱心に次の練習試合の相手の話を続けている。 「敦、起きないと、そろそろ竹刀がとぶぞ」
んぅ。小さく呻いても起きる気配はない。ああ、これはもうだめだな。諦めて視線を画面に映そうとした時、
「甘いにおいがする!」
バンっと机を叩いて敦が体を起こした。
「どっからしてんの?このにおい!」
「こら、敦、ミーティング中」
寝ぼけてるのか本気なのか分からない。一気に視線がこちらへと集まるが敦は気にせずきょろきょろあたりを見回している。 すんすんと鼻をならしながら、まるで獲物を探すかのように真剣な目つきで周りを探っている。
「室ちんでしょ!」
「はぁ?ちょっと、落ち着くんだ、寝ぼけてるんだろう」
「何持ってんの?さっきお菓子ないっていったじゃん!」
確かにいったけれど。俺、本当にお菓子持ってないんだけどな。あまりの形相に周りも怒るどころか呆れてしまっているようで、止めてもくれない。 劉が食べ物って恐ろしいアルと呟くのが聞こえた。
敦が俺に近寄ってもう一度すん、と鼻をならした。
「ぜったい室ちんからするんだけどなあ…」
「わっ、どこに手いれてるんだ」
ごそごそと手がジャージの上着の下に侵入してきたので、片手で額を叩く。
「いってー、殴らなくてもいいじゃん!」
「敦が寝ぼけてるだけだろう?」
手を動かしながらそれでも納得はできないようで、首をかしげたままだ。今度は素肌に触ろうと指先がTシャツの下をくぐろうとしている。
「敦、本当にいい加減に…」
「お前ら二人とも顔洗ってこい!」
パァンと竹刀がホワイトボードを打ったので渋々外に出ると、何でだろうなーと言いながら意地の悪い笑みを浮かべる敦の横顔が見えた。ああ、やられた。

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「アツシの嗅覚すごいアル。これ、氷室の上着にちょっとつけただけなのに」(劉)
「あん?…バニラ?…の香水って…お前のせいかよ!」(福井)