真ちゃんは色気があるよねえ、と何となく言ったらコーヒー吹かれた。 「うわ、マジ?そんなんなると思ってなかったわ」 幸いトレーが濡れたくらいで悲惨なことにはならなかった。周りの客も談笑を楽しんでるし、慌ててるのは俺たちだけだ。 「こんな公共の場で何を言っているのだよ」 「え、真ちゃんは色気があるよねえって」 「繰り返すな」 「何を言っているんだって言ったから」 「そういう意味じゃないのだよ」 だって、まず飲み方がえろい。丁寧に口元を拭う姿もなんだか色っぽいし。しるこだったら色気半減だけどコーヒーだと、なんかいい。コーヒーすげえ。 こんなこと言ってコーヒー吹かれるのはもう嫌だから言わないけど。 長い睫毛に白い肌に、手入れされた指先。ブラインドから光が漏れて、カップを置いた手はさらに綺麗に見える。残念ながら本日も爪の姿はみえないけれど、あの白に隠れた爪がとてもきれいなことを俺はよく知ってる。 「そんな馬鹿な事を言うなという意味だ」 「馬鹿なことじゃなくて、事実だっての」 理由も全部言ってあげよっか。俺、答えられるよ。そう言うと真ちゃんは結構だ、と言って再びコーヒーに口をつけた。 バスケをしてる真ちゃんは高校生らしい。努力をしたり、勝利を求めたりする姿は高校生らしいと思う。 だからまあ自分も頑張ろうと思うのだけれど、それ以外のときは何だか年齢不詳な感じがする。 制服を着ずに本でも読んでいたら大学生にだって間違われるだろうし、もしかしたら社会人だって言っても通じるかもしれない。 この、よくわからない感じ、っていうのが色気に繋がってんだろーな。 「俺、真ちゃんになら抱かれてもいいよ。だって傷つけられなさそうじゃん」 「まだ馬鹿な事を…」 「そーかも。でも本当の事だし」 あれ、何言ってんだ俺。でももう時すでに遅し。レンズ越しの目が大きくなる。瞬きをして、ため息。こんな一連の動作だって、とてもきれいだ。 「抱いてやろうか」 「うえっ?」 「冗談なのだよ。焦ったか?」 焦った。抱いてやろうかって何それ。口調違うじゃん。誰だよそれ。 カフェラテ吹かなくてよかった。これがもし夜だったら、どうなってたんだろう。夜だったら俺の方が勢いある気がするんだけどな。 そんな様子を見透かしたかのように真ちゃんは美しい唇を綺麗に持ち上げて勝ち誇ったかのように笑った。 20120901 ある日の午後のこと |