コートを駆け抜けて、ボールを投げる。見なくても、ボールはリングにはいるって分かったから、ボールを見るのをやめた。 さつきの目はボールを追いかけていて、ボールが地面に落ちると同時に手を叩く。
「だいちゃんすごぉい」
俺はすごいことなんてしてるなんて思ってなかったけど、すごいと言ってさつきが笑うのは悪い気はしなかった。ちょっと、嬉しいとも思ったりした。バスケは楽しいし、やればやるほどうまくなる。 終ったあとに食べるアイスはうまかったし、明日がくるのも待ち遠しかった。早くボールに触りたいし、コートを走りたい。明日はどんなやつとやれるだろう。 毎日わくわくしてた。さつきは毎日飽きずについてきて、コートの近くのベンチに座って、笑っていた。こんなに楽しいんだからさつきもやればいいのに。 俺の相手にはならないだろうけど、絶対楽しいのに。だから、今日の帰り道に聞くことにした。本当に聞きたかったのは、バスケをやらない理由じゃなくて、さつきが最近書いてるノートの正体が気になったからだけど。

「さつきもやりゃーいいのに」
「みてるのが楽しいからいいの」
「へぇ。ならいいけど。それなに」
「これ?だいちゃんのバスケの記録、書くことにしたの」

見せろよとせがむと、だめぇと抱え込んでしまったので奪えなかった。さすがに破ったらさつきに怒られる。さつきは怒ると泣くし喚くしめんどくさい。 どうせ、俺には見せられないようなことでも書いてんだろ。相手の誰がかっこよかったか書いてんだ。色々言ってみても、さつきは「内緒」しか言わない。

「ほんとははバスケみてるの暇で絵でも書いてるんじゃねえの!」
「違うもん、ちゃんと見てる!ちゃんと…見てるもん」

ぎゅっと抱え込まれたノートに爪が食い込む。さつきの泣く前の癖だ。やべぇ、泣く。ああ、もう、泣くなよ。めんどくさい。走って、先に帰ってやろう。 めんどくさいことは逃げるに限る。二、三歩駆け出しただけで、すぐに離れることができる。振り返ると、唇を固く閉じたさつきが立ったままだった。 いつもなら待ってって言うのに。走って追ってくるのに。

「そんじゃあ毎日勝ったしか書くことねーな!」

叫んでやると、固く閉じられた唇が開いた。ちょっとしてから、さつきはいつもみたいに笑った。ピンク色のスニーカーがぱたぱたと動いて、隣に並ぶ。

「そうかなあ」
「あたりめーだろ!だから書くときも、『昨日と同じ』でいいんだぜ、よかったな!」

もっとちゃんと書くよとさつきは言ったけれど、ちゃんと何を書くんだろう。昨日と同じって毎日サボらず書くってことか? まあもうなんだっていいけど、色々考えていたら、さつきが今日のご飯はなにかなあと言いだした。さつきの家のごはんが俺の好きなものだったら、後でこっそり食べに行こう。 ぐるぐるぐる。腹が鳴る。早く帰って、飯食いたい。早く帰ろうぜって言って、手を掴んで走り出す。速いよ、とさつきは怒った風に言ったけど、顔は笑ってる。 景色がぐんぐん変わる。走るとボールが恋しくなる。あー、早く明日になんねえかなあ


20120901 恋する日々