オレの身長はとても高いから机も椅子もすごく小さい。
一年生の時だって、学年が違う奴が紛れ込んでるんじゃないかって囁いてるのが聞こえた。 幼稚園のころからそうだったから、別に嫌じゃなかったけど、ランドセルは小さいなっておもった。おやつの時間がなくなって、勉強はおもしろくなかった。 遊ぶのにも力の加減を気をつけなきゃいけなかった。
二年生になったら、オレのことをしらない子なんていなかった。オレは相手のことを知らないのに、みんなは知ってる。 変な感じだなと思った。名前を呼ばれても振り返るのが面倒臭くなって、誰が誰だかもどうでもよくなってきた。
三年生のときには、運動会で女の子と手を繋がなきゃいけなかった。その子も背は高かったけど、おれを見上げる目はおびえていた。 とって食べたりしないのに。嫌がってるんじゃないかって思って、手をとれないでいたら先生が怒るから仕方なしに手をとった。 おおきい手だねえって、おびえた目はどこかへやって女の子は目を丸くした。痛くない?って聞いたら首を振った。むらさきばらくんって、優しいんだねって女の子が少しだけほっぺを赤くして言うから、 恥ずかしくなった。クラス遊びでドッジボールをするとき、その子の前に立ってみたりもした。ドッジボールは正直あんま好きじゃなかったけど、このときはちょっと大きいのも便利かなって思った。
四年生になると、ぴかぴかだったランドセルはもうぼろぼろだったし、小さくて背負えなくなった。なんだか急に周りが賢くなってきた。綱引きも、玉入れも、俺がいたらずるいらしい。できてあたりまえで、ずるいらしい。学校でのスポーツは競う相手がいなくなった。 そのときにバスケをやらないかって言われて、なんとなく始めた。初めて会ったとき、六年の男子がすごく嫌そうな顔をした。そんなん知らねーし。お前が小さいのが悪いんじゃん。 負けるのが嫌だし、手を抜かずにやればすぐに簡単にボールは奪えた。ずりぃよ。俺の方が早くからやってたのに!足元に転がって行ったボールを投げて、泣きながらどっかいった。 ずるいって言ったやつは俺を勝手にライバルにした。ドリョクすれば俺にだって勝てるって言ったくせに、結局俺に勝つことはなかった。負けては泣いた。まるで俺が悪いかのように見るやつもいた。 なんで?どうして?勝手に妬んだのはそっちじゃん。オレ、悪くないし。だからボコボコにしてやった。もうそいつがコートにやってくることはなくなった。
五年生の終りになると急に身長が伸びた。そうなると教科書を見せてもらう時もとなりの子と机の高さが合わなくてすごく大変だった。オレは忘れ物をすることが多いから、隣の子もなんとかして机の高さを埋めようとしてくれた。 国語辞典の上にノートを積み重ねてみたりしてみた。そんな風にして授業の時間をつぶすのは嫌いじゃなかった。
バスケは続けた。上のやつらがいなくなれば、あんなこと言われない。別に背が高いことは気にしてない。スポーツができることだって何を言われても気にしない。面倒くさかった。勝手に誰かの理由にされて泣かれるのが、面倒だった。

勝手に妬んで、泣いて、オレが悪いみたいにいう。
オレは、好きで大きくなったんじゃない。
オレのせいじゃない。
みんなに才能がないだけでしょ。

そして、六年生になった。背が伸びたのは俺だけじゃなかったけど、それでもやっぱり一番高いのは俺だった。一年生と手を繋ぐのが大変だった。勝手に体によじ登られたりもした。 オレのことを妬んでいたやつらは卒業して、ミニバスでは一番年上になった。同級生とも何度か揉めたことはあるけど、才能がないくせに喚き散らすやつらが悪い。 ドリョクっていうのは偉いの?なんとなくやって、勝つことは悪いことなの?でも勝てなかったら意味ないじゃん。何のために試合するかって勝ちたいからでしょ。 俺は理解するのをやめた。考えても無駄だ。だってもう俺が感じることとあいつらが感じることは絶対違うんだ。お互い分かるはずがないんだ。 だから思い知ればいい。才能がないのならやめればいいんだ。
試合に出れなくてもバスケが楽しいからいいんだって笑うやつの気持ちがわからなかった。
楽しいってなに?俺にはわからない。わからないままで、もういいや。負けたくない。それだけで、いいじゃん。

中学は私立に行く。強豪校でバスケをする。この小さな机と椅子ともおさらばだ。
窮屈な世界は、そこで満たされる奴らで埋めればいいんだ。



20120912 僕がいない世界