暗闇の恋人 3

この先ずっと変わらないものがあって、そこに彼をいれることはできない。 これまで生きてきて抱えてきたものを晒せた人がいる。大切な人。 恋かもしれない、愛かもしれない、同情かもしれない、家族かもしれない。私が持つ言葉ではその関係を表すことなんてできない。 私がもっと知識を増やせばそれを表せれるようになるのかもわからない。 でも彼にも同じような人がいるであろうに、その人たちのことを思うと、どうも私は入れない。小さな隙間があったとして、もぐりこんでもきっと耐えれなくて出てきてしまうような、深いものがそこにはある。 乗ってきた自転車はスタンドがなく、とめられなかったのか砂浜の上で倒れている。(もうちょっとマシなものはなかったのか) 足首に砂がまとわりつく。目の前には海が見える。私が望んでいたもの。
「万事屋がもしいきなりなくなったら、私はどうなると思う?」
「さぁ」
「お前が真選組とかいうやつがなくなったら、どうする?」
「真選組がなくなるわけねぇだろィ」
彼らは本当の親子のような繋がりがある。でも私には?いつか周りの人が姿を消すかもしれない。愛していた母のように。ある日目が覚めたら誰も居ない。 名前を呼んでも返事が無い。築きあげたものが一気に崩れ落ちる。どうしようもない不安がある。結局みんないつかは自分から離れていくのだと、自分は離れなければいけないと。 ずっと一緒にいるような口実があればいいのにと思っていた。
「なくなったら、どうしたらいいんだろう」
「ふーん、で、それだけ?」
「私には大事なことヨ」
「俺には関係ない話でさァ」
ざぶん。波の音が大きく聞こえる。広い海をみて、自分の小ささを思い知りたかった。彼には全く関係ないことなのに。言わなきゃよかったと後悔しても、もう遅かった。 馬鹿だなあ。もっと、もっと大人になれたら、違う考え方ができるのかもしれない。大人は遠い。でもあっという間になってしまう。
「…俺は人にいいように使われるのは嫌いなもんでねェ」
あ、怒らせた。視界がいっそう暗くなって、唇から潮の味。ここは目を閉じるべきなんだろうけど、馬鹿みたいにあけたままだった。我に返って突きとばして、しりもちをついた彼を見下ろした。
「な…、か、返せヨ!」
「無理に決まってんだろ、ばーか」
吐き捨てるように行って、砂をはらって彼は立ちあがった。馬鹿だとわかっているけど人に言われるのは腹が立つ。「それに、ちっとも嬉しくなんかねェから安心してくだせェ」とまで言った。 ごめん、謝ったのは私で彼ではない。別に謝る必要なんて無いのに。自分勝手すぎたのはわかっているからだ。 でもそれとこれは別。別に決まってる。ひどいことをした。ひどいことをされた。嫌われる。もういい、それでいいから、嫌いなってくれればいい。 彼の顔を見ることができなくて、そのまま駆け出した。
ずずっと鼻をすする。鼻が痛い。海のせいだ。ひどい顔をしてるのがわかった。
きっと、彼も同じような顔をしているということも。