暗闇の恋人 5

身も心もすっかりまいってしまった俺は太陽が照り付けるまで砂浜に転がっていた。 それでも結局俺自身が出した答えは、とりあえず仕事に戻ろう、だったのだ。戻る場所はそこしかなかった。 やっとの思いで屯所に着いたら、思いのほか安心してため息がもれた。近藤さんは鼻の頭を赤くした(あともうひとつの部分も)俺を見て
「若いってのはいいけど、ほどほどにな」
あまり爽やかでない(どちらかといえばむさ苦しい)笑顔をみせて、仕事だ仕事と去っていった。 顔を洗おう。何か食って、少しだけ寝よう。(それから、それから?)今日は屯所を出ないでおこう。 畳みに火照る頬を押し付けた。瞼を閉じても昨日のことが思い出されるだけれで、耳元にはあの声が響いて、潮の味が忘れられない。 それでも、笑う近藤さんを見れば、憎い上司を見れば、此処は(俺は)真選組だということを思い知る。畳の匂いと飯のときの騒がしさ。(なくなったら、どうすればいいんだろう)(震えていたあの声)(…うる、せーのに) これを失くしてまでして、俺は何処かへ行くことなどできやしない。こればっかりはどうしようもできない。ひとりで笑いそうになったとき、長身の男の影で僅かに視界が暗くなる。
「女とふらつくなんて、いい度胸だなぁ総悟」
「土方さんは黙ってくだせェ」
「お前女に走って弱くなったら呆れるぞ」
「土方さんはァ、」
女と真選組どっち選びます?なんて、聞けるわけが無い。こんなの恥だ、恥。相当思考回路が危ういらしい。正常な判断すら下せなさそうだ。 答えは決まっている。俺だって近藤さんを選ぶ。誰よりも何よりも、この人についていこうと決めたのだから、迷いなんて無いはずなのだ。(まあ、その近藤さんは恋は人生を変えると叫んでいたのは置いておいて)
「どうせボロクソに言われたんだろ、てめェで考えろ」
嫌なことがあったときに畳に突っ伏すのはお前の癖だ、と。反論しようとしたところでもう姿は無かった。煙だけが宙に浮かんでいる。赤く充血してるであろう、目の上に腕をおいた。情けなェ。 そんな優しさ、吐気がする。