暗闇の恋人6

「ちょっとそこのお兄さん、うちの子連れ去ったらしいじゃない」
あれから別に何も起こらないまま時間は過ぎて、あれは夢だったんだと思い込もうとした矢先、これだ。 本当に仕事をサボるとろくなことが無い。アイマスクをずらしてみると、やはり予想していた男が立っている。
「真昼間から仕事サボるたぁ、断る理由なんてねぇよなぁ。俺甘いもん食いたいんだけど、付き合ってくれる?」
勿論君の奢りで、と腹が立っているのか何なのかは知らないが(いや、もともとこういう人か?)財布の中身を確認して、旦那の勧めるファミレスへと入った。
「いや、悪いねー、にしても、うまっ」
本題をいつ切り出されるのかと、そわそわしている俺を前に旦那は注文したパフェを貪り食っている。 多分それを食べ終わったら切り出されるに違いない。ところが、パフェを食べ終わっても旦那はあの話をしようとしない。食った食ったと腹を叩いている。
「…旦那ァ、あんた何考えてるんでィ」
「それはこっちが聞きてェよなァ、夜中にいきなり居なくなったって慌てて探しに行ったら、潮くせぇし、聞くにも聞けねぇし、」
聞くにも聞けない、ということはだ。あいつは何も話していない。つまり、旦那は何も知らないはずなのだ。
「俺の勘は当たるんだなァ、沖田くん、うちの子連れていちゃついてましたってかァ?」
若いねえと言う旦那の顔は笑っていない。
「でもあんたの子じゃ、ないでしょう」
「言うねェ、じゃあこっちも言わせてもらうけどけどよォ、別にあいつは君の何でもねェよなァ」
「そうでさァ」
そんなこと分かっているから、こうして悩んでいるのに、この野郎。ちくりちくりと棘を刺される。
「んで、それで終わりですかィ」
「一応聞いておこうと思ってよォ、得体の知れねぇ野郎だったら嫌だし」
「…旦那ちょいと聞きますけど、あんたあいつを恋愛対象にする気あります?」
「……俺は、あいつをそんな目では見れねーよ」
「本当に?」
「嘘ついてどーすんだよ」
「わかりやした。じゃあ俺があんたからあいつをとっても、文句はなしってことでお願いしやす」
もう用は済んだだろう。金をテーブルの上に置いて、とっとと外へ出た。遠くから「ごちそーさーん」という声が聞こえた。 どんなに煙たがられてもいい、近いうちに会いに行こう。絡まっていた糸がするすると解けよるようなそんな気分だった。