僕らのリトルハニー

起きて早々神楽ちゃんが「新八、ケーキは?」と嬉しそうに言った。違う日と勘違いしているのではないのかと思ってとりあえず「明けましておめでとう」と言ってみた。 すぐに神楽ちゃんはおめでとう、と笑ったけれど「ケーキは?」と繰り返した。ケーキ、ケーキ?今日はクリスマスだったのだろうか。いやいや、昨日の晩は蕎麦を食べて年を越したはずだし、今は昆布巻きを作っているところだ。 やはり神楽ちゃんの勘違いである。
「神楽ちゃん、今日はお正月だよ?」
「わかってるヨ、昨日お蕎麦食べたアル。でもめでたい日なんでしょう?」
「うーん・・・めでたいけどケーキは食べないよ」
「誕生日はめでたいからケーキ食べるアル。じゃあ今日も食べれるヨ!」
これじゃあ永遠に続いてしまう。こんなに食い意地が張ったのは誰に似たのか。(いや、考えるまでもない)頬を膨らませた神楽ちゃんが銀さんへと目を向ける。それに気づいた銀さんは慌ててテレビをつけて見始めた。明けましておめでとうございまーす、と高い女の人の声とざわざわとした音が聞こえてくる。 神楽ちゃんは銀さんの横に座ってテレビの音量を小さくした。顔はにっこりと笑っている。完璧に娘がお父さんに物をねだる図である。
「めでたいときはケーキ食べるネ、ねぇ銀ちゃん?」
「お、おう、そ、そーだぞ!何でケーキがねぇんだ!」
「銀さんそこ吃っちゃ駄目でしょう…しかも一緒になって悪ノリすんな!お正月にケーキは食べないし、そんなお金もありません。銀さん、あんた正月から糖尿に向って走っていく気ですか?新年だからこそ我慢する所でしょう」
「新年早々怒っちゃいかんよ新八君。大体俺はもうゴール寸前だから走らなくていいんだよ」
「よくないだろォォォォ!」
「いいじゃない新八、もうゴールテープ切らせてあげようヨ!だからケーキ!」
良くない、良くないぞこれは。(銀さんの糖尿も、この流れもだ)要するに神楽ちゃんはもう正月どうこうよりもケーキが食べたいだけになってきている。 まあ最初からそうだろうけど。神楽ちゃんに押されて銀さんは満更でもないようだ。正月だしなあ、めでたいしなあ、ケーキ食いたいし…とごにょごにょ言っている。
「しょうがねーなぁ、銀さんから君たちへケーキを買ってあげようじゃないの、これがお年玉にけってーい」
やったあと喜ぶ神楽ちゃんを見て銀さんはにんまり笑っている。やれやれ、しょうがない。
「じゃあおせち食べてからですよ?…そもそも店って開いてるんですかね」
「世の中便利になってんだからどっかしら開いてるだろーよ、さて、飯食うか」
そうですね、と頷いて振り返ると神楽ちゃんが既につまみ食いをしている。ケーキが決まったら次はこっちか。 少し呆れて、注意しようとすると「新八美味しい!」と笑顔で言うものだからつられて笑ってしまった。
昼過ぎ、僕らはケーキを探す旅に出かけた。手が寒いという神楽ちゃんの要望に答えて三人手を繋いで。