|
そこにあるもの 「男の人って本気で人を好きになるんですかねえ」 俺に聞くの?と筐口さんは苦笑を浮かべてアイスコーヒーを飲んだ。からんと氷の回る音がする。 私は女だからわからないけれど。第一胸が締め付けられるようなときめきを(少女漫画によるとこういうものらしいので)まだ感じた事が無い。 離れたくないだなんて、そんなの疲れるんじゃないかとか。好きな時に好きなもの食べれないしとか、考えてしまうのだ。 男性歌手が歌う歌詞の中身はいつだって誰かを思うものが書き記されているけど、本当にその感情を知ってるの? 一度その話を叶絵にしたら、そりゃあそういう経験をしたから書けるもんなんだから、本当に知ってるんでしょ、だって。 私にはどうしてもそれが信じられなくて、だって、無から物語をつくる人もいるんだから、 それらはただの想像にすぎなくて、本当は本当に誰かを好きになるとか、ましてや愛するなんて経験した人はこの狭い日本にどれくらいいるのだろう。 「なるよ」 あっさり筐口さんが答えるもんだから、私は拍子抜けして「へ、へぇー」と情けない返事をした。それに筐口さんはくすりと笑う。(なるよって、言い切っちゃったし)(ってことは筐口さんもそういう経験があるってことだよね)(もしかして現在進行形なのかもしれないし) なんだか子供みたいな質問だと思ったので(実際子供だけど)、少しだけ頬が熱くなった。 「いや、俺もわかんないけど」 「ええ、なんか言ってることが矛盾してません?」 「まあ、相手によるんじゃねーの、そういうのって。大体自分がどうかはおいといて人間的にそういうのがあるって信じたいじゃん」 だってそうじゃないと悲しいと思わない?という筐口さんの問いに私は納得した。干からびた世の中だし、確かにそういうのにしか潤いを求められないのかもしれない。 要するに自家発電すれば済む話だから。(でもそれができない人は?) 「そうですけど…」 「昔の俺はこんなこと考えなかったと思うけど」 …昔。私は思わず繰り返してしまった。うん、昔っていうか、つい最近まで。筐口さんが言う。店内はざわついてるはずなのにその単語だけが耳に残った。 「これは桂木のおかげだから」 「え、そ、そんな」 「いや、まじで」 「あ、え、ええ?」 恥ずかしくて目を泳がせていると、にこりと笑う筐口さんと目があったので(こんな顔して笑う人だったんだ)思わず笑った。筐口さんは残り少ないアイスコーヒーを喉に流し込む。そして、あ、と小さく呟いて 「だって俺、桂木のこと好きだし」 え、それって。胸が熱くなるのに、うわあ、と自分で驚いて、トロピカルジュースを飲んだ。なんか話がとてもずれてる気がするんだけど、多分、好きも愛するもこういう感情からきっと生まれんだろうなあと色鮮やかな液体が胸の熱を奪っていくのを感じながら、私は思ったのだ。 |