夏のせいにして

体から水分が失われて、干からびそう。冷蔵庫の中に閉じ込められたい。 銀ちゃんも数時間前までは暑い暑いと低く唸りながら転がっていたけれど体力の無駄だとわかったのか、もうぴくりとも動かない。
「銀ちゃん」
試しに呼んでも返事はない。一定の呼吸のみをしてソファーに転がっている。テレビをつけても蝉の声と重なって聞こえやしない。夏はおかしい! 寝転がって天井の目を数える。暇だ暑い暑い暑い暇だやることない。数えるのにも飽きてぼんやりとしてると視界に新八が入り込んでくる。 新八はため息をついて横に屈んだ。私と銀ちゃんとを交互に見て、「親子みたいだね」と笑う。
「僕買い物いってくるから、留守番しててよ、お昼までには帰ってくるから」
こんなに近くにいるのに声は遠い。頭の中で新八の声がワンテンポ遅れて繰り返される。留守番、か。 まだ昼にもなってないのにこの暑さ。べったり張り付いた服の感触が気持ち悪い。 いっそのこと脱いでしまえば、と考えたところでやめる。(さすがに、それは)(そういえばおんなだった) 目だけを動かして定春のほうをみれば大好きなあの長い白い毛が今は凄く定春にとって邪魔にみえる。申し訳ないけど今だけは抱きつけそうにない。
寝返りをうってもうつる物は変わらない。転がってる銀ちゃんに聞こえないテレビにもこもこした定春。傘を持って外へ出てもいいけれど、起きる気力がない。 もっと鮮やかな景色がみたい。むしろ思い切り青い空をこの目で見て光を浴びるほうが心地いいに違いない。 ぎぃ、ばたばた、どすん、ばたばた。その音を聞いたのか銀ちゃんが寝起きの顔で私を見る。不細工な顔。新八が帰ってきたのヨ、と私は寝転んだまま小さな声で言った。んだよ、早くね?と銀ちゃんはぼやいて(時間だけが勝手に生きてる)銀ちゃんはまたソファーに身を沈めた。なんだ、つまらない。
「あー、あっつい!ただいまー」
「…おかえり」
さっきと同じように新八が横に屈んで顔を覗き込んでくる。でも少しだけ違って新八の顔の前には黄色い花があった。いつも持っていればもっと華やかになるのになあ。
「どうしたの、それ」
「夏だなあと思って、ついね」
ほんとはもっといっぱい咲いてるところ見せたいんだけど、もう少し涼しくなってからかじゃないとねぇ。差し出された向日葵を受け取る。 太陽の匂いがした。(あんなに憎いものなのにこんなに嬉しい)
「夏も悪く無いよ、こんなに季節が感じれるんだから」
笑ってる新八の額の汗が滴るのを見て、余計に暑くなった。