夕陽が沈んで闇に染まる頃は急に寂しさに襲われる。ネウロは座って本を読んでいる。 その後ろから夕陽が射すのはとても美しい。 金色の髪も翡翠色の瞳も一層美しく見える。だから、急に寂しくなるのだ。ふと顔を上げたときにそれをみると、息を呑んでしまう。 ふらふらとネウロの元へと歩く。ぱたんとネウロが本を閉じたけれど何も言わない。 私は右手でゆっくりと髪に触れて頬に触れて手袋に触れた。ネウロは微動だにしない。人の温もりは感じられないけれど、私はこの行為が好きだ。大抵は途中で手首を掴まれてしまうけど。
「よかった」
「何がだ」
手袋よりもやっぱり肌に触れるほうが好きだなぁ。もういちど手をネウロの頬にあててみる。今度は両手で。今日に限って、嫌がらないのが困る。冷たいのに少しだけ柔らかい。 本当、上手く化けているのね。
「…ちゃんと、生きてるなぁって」
「馬鹿め」
「こわくなったの」
幻みたいで、というのは飲み込んだ。ネウロが少しだけ笑みを浮かべる。いつもの少し皮肉を浮かべた笑みだ。
「いつもにも増しておかしいな、変なものでも食ったのか」
「…ちがう。ネウロこそ嫌がらないんだね」
「人間は感情の起伏が激しいからな、たまには許してやろう」
「よくわかってるじゃない」
今日のネウロは穏やか過ぎて気持ち悪い。でもそんなネウロもいいかもしれない。私は勝手に思って少しだけ頬を緩ませた。夕陽が眩しい。こうして今日もまた終わっていく。同じように明日も終って、明後日も終っていく。 時がとまってほしいとは思わない。進化をとめるということだから。流れていく時を精一杯慈しんでいきたい。それはいつか終焉をむかえるということを意味しているけれど。
「ずっとそばにいてほしいの」
寂しさに襲われて思わず口にしてしまった。ずっと、っていつまで?私が死ぬまで?ネウロが死ぬまで? そんなことはわからない。ただ傍に居てほしい。そう思うようになったのはいつからだろう。 私はネウロを手放すのが惜しい。きぃ、と椅子が鳴った。立ち上がったネウロはこのまま何処かへ羽ばたいてしまいそうな気がするのだ。 翡翠色の瞳が近づいてくる。私もゆっくりと首を上げた。こんなに近いのに寂しさは頂点に達してしまいそうだ。目が熱くなったので瞼をとじる。 今は、ちゃんとここにいるんだよね? 叶わない願い事を何度も願う。離れないで。消えてしまわないで。どうか、私の傍にいてください。そう願う私の唇を愚かだと嘲笑って傷つけてよ。 なのに、ねぇ。こんな優しいキスするなんて、ずるいよ。

狂おしい/20090308