あいさないかたち


日が暮れたら、待ってる。考えてみればキザな言葉だ。 「会いたかった」 白い息とともにはきだされる言葉は、確かに今彼が言ったもの。嫌だったわけじゃないけれど変な感じがしたので 「嘘は嫌い」と言ってみる。 本当のところ、彼がどう思っているかなんて知らない。 こういえば喜ぶと思ったんですけどねィ。彼は幼い笑顔で言ってわしゃわしゃと自分の髪をかく。 金色の髪がぐしゃぐしゃになる。(あ、誰かに似てる)(ごめんね) 「俺はあんたが望んでいる人じゃないし代わりにもなれない」 ぶちぶちっ、と彼の手のひらにしたにあった草がぬかれる。(ああ、かわいそう。これから花を咲かすことができたかもしれないのに) 「求めてばかり、そんなのじゃ幸せになれない」 一途になるということ。(誰に?)酷い女。甘い言葉はもう言わない。容易く言うものではないと思うから。 「わかってるならいいんですけど」 私達はいつまでもこうして繰り返し続ける、同じことを。終わりなんて見えない。果たして終わる事はあるのだろうか。 これだから生きるということは面倒なのだ。でも私は生きていたい。うつくしい世界をみて、傍に誰か居て欲しい。 その願いは叶っているというのに。傍に居てくれてるのに、私は我儘で。ほんとは求めてるつもりなんかなくて。どうしたらいいのかわからなくて。 やがて白い雪が溶けて、桃色の花が咲き、かき氷が恋しくなって、赤く染まった葉が地面に敷き詰められる。 この世界が終わりを知らないのと同じように、私達も終わりを知らない。 (しかしいつか世界は終るだろう、悲しいかな命与えられた全てのものに寿命はあるのだ)(そのときまで、わたしたちは) ここにあるものは恋?(理解しようとしないだけ)(気づきたくないだけ)


何を言えば喜ぶのだろう。彼女が来るまでもごもごと自分の口の中で練習をする。 (あんたに会えなくて寂しかった)(ああ、、駄目だ似合わねぇ) ざっざっざ。がりがりがり。足音と、傘を引きずる音が聞こえてきて。いつのまにかかいていた手の汗をてきとうに拭う。 黙って彼女が隣に腰をおろす。当たり前のようで、嬉しくなる。小さく深呼吸をして。 「会いたかった」 「嘘は嫌い」 嬉しくなるのもほんの少しで終わり。嘘じゃない。嘘じゃ、ねぇよ。(あれだけ考えたのにあっけなく終ってしまった) なんだか虚しくなったので言い訳にこういえば喜ぶと思ったのに、と言って髪をかいて笑ってみせる。 彼女の表情が変わる。じわり、怒りがこみあげる。(誰に対しての?) 別に俺は何も望んではいないけれど。あんたが、望むから。 「俺はあんたが望んでいる人じゃないし代わりにもなれない」 手の下にある少し湿った草を握る。悲しそうに俯かれる。俺だって悲しい。沈黙に耐えれなくなって草を引っこ抜いてやる。 (この手だって草なんか相手にしたいわけじゃない。握りたいのは、) 残酷な音をたてて抜いた草を少し見つめて、ぱらぱらと地面にかえす。 「求めてばかり、そんなのじゃ幸せになれない」 「わかってるならいいんですけど」 俺はあの人にはなれない。それになりたくもない。そう思う理由は単純なもので、ただ俺は俺でありたいと思う。(彼女だってそうだ) いつまでたってもわかってはくれない。触れることのできない本心。結局のところ俺がただの臆病なやつなだけだ。 果たしてこれはいつまで続くのだろう。一生続けてゆくのにはもろい関係だから、終ってしまうのだろう。 しかし俺は今のところ別に彼女を殺そうとは思ってはいない。

終わる事のない悲しみでさえ幸せと信じて生きてゆく