焼きつく甘さ

古びた万事屋の戸を叩くと眼鏡の少年が出てくる。俺の顔を見てすぐに銀時を呼んだ。しばらく待つと髪をぼさぼさにさせた銀時が出てくる。 眼鏡の少年が正反対だなぁと呟いた。
「銀時、ちょっといいか」
「いいけど、別に、外か?」
「そっちのほうがいい」
赤い髪した少女が私も行きたいと言ったが、眼鏡の少年がとめた。 いってらっしゃい、二人が声を揃えて言う。おぉ、いってくるよ、銀時はたぶん笑って手をふって、戸を閉めた。
「なんだよ、いきなり」
別に特に話すことなんてねぇよ、と銀時が足を万事屋へ戻そうとする。俺は引き止めて、奢ってやるから、と言った。 じゃあパフェな、パフェ!と銀時が喜ぶので(本当は嫌だが仕方なく)近くの店に入った。 席に座るとすぐに店員を呼んでチョコレートパフェとりあえずひとつ、と銀時が言った。
(銀時、お前はいつからそんなものを食べるようになった?)
銀時は昔から甘いものが好きだった。しかしこんな異常な(少なくとも病にかかるほど)好きではなかった気がする。 銀時が店員が持ってきたパフェを見つめて、嬉しそうにスプーンを持った。
「なぁ銀時、お前、今、」
「楽しいぜ、今」
もぐもぐと口を動かしながら言う。違う、俺は幸せか、と聞きたかったのに。でももう俺は聞けなかった。 銀時が楽しいと言えば、それが事実なのだから。俺がどれだけ銀時のいう言葉を信じれなくても。ほんとうにそうなのか、銀時、お前はほんとうに。
「相変わらず金はねぇけどさ、楽しいんだよ」
続けて、最近の出来事を銀時は話し出した。

こないだなんかさ、俺の思い出を探してくれとか変なこと言うじいさんが依頼しにきたんだよ、 面倒くさそうだから断ろうと思ったら神楽が引き受けるっていったんだ。で、じいさんの思い出探しが始まったわけ。 でも結局見つかるわけがなくてさぁ、なぁ、だって形で残ってるわけねぇからな。じいさんがかなり落ち込んでよぉ、 このまま死なれたら困りますよ、って新八が焦りだしてさ。そしたら横で神楽がじいさんに昔の話をして、って頼んでんだよ。 長いじいさんの昔話がはじまってよ。俺達はぼーっと聞いてたんだよ。でも話が終ったらじいさんが喜んでさ。 俺は聞いて驚いたぜ、ちょ、おい、コラ!ヅラ、聞けよ。

聞いている、と返事をする。話は聞いていたものの、どうも、なんだかおかしい。(だいたい話すことなんてないと言っていたくせに)銀時が話す全てが言い訳に聞こえてしまう。
「俺は忘れちゃいなかった、ほんとうによかった、だとよ。なんかクサイ台詞だけどよぉ、俺は驚いたね」
そのじいさんがボケてなかっただけだろってツッコミはなしな、銀時がにやりと笑って最後の一口を頬張る。 じゃあ銀時、お前はどうなんだ。お前は覚えているか、昔の事を。(俺にとって昔ではない、あのときの記憶はいまだって忘れず覚えているのに) あのときだって、楽しかっただろう。お前は昔が恋しいとは思わないのか。思い出、だなんて美しいものなのかわからないけれど。 もしも、形に残っていれば。おまえは、なぁ、銀時!(けれど俺は言えない) カラン、と銀時の手からスプーンがグラスに落ちる。すいませーん、おかわり、と嬉しそうな声で店員を呼び止める。
「ヅラぁ、そんな顔すんなよ」
俺はもうお前に望まないから(共に戦うことも、今までの悲劇を抱えて生きていけだなんて)、銀時、お前が思う幸せがそこにあるのなら、それでいい。 黙っているままの俺を見て、銀時はため息をつく。店員がチョコレートパフェを静かに置いて、空になったグラスを持っていく。
「…食う?」
銀時の手元から俺の手元にパフェが移動する。グラスをのぞけば生クリームがべったりとグラスにはりついている。
「お前、これを俺に食えというのか」
「ありがたく思えよ、俺が甘いもんを人にやることなんて滅多にねーんだからな。新八と神楽と来たらさ、パフェ一個ですげー争うんだよ。でもなぁ、甘いもん食ったら、幸せになれんだよ」
あまり食べたくはないが、生クリームの固まりをすくって、口にいれる。おお、食べた!と銀時が笑った。(俺は動物園にいる動物じゃない) 食べなれていない味と、甘さが胃の中を支配する。

それでも銀時がこれを幸せだというのなら、不味くはなかった。