花のように生きる

今日はとてもいい天気だったので、1人で散歩をするといって外へ出てきた。 散歩へ行くと銀ちゃんに言うとデートかデートか、とにやにやしながら聞いてきた。私はそんなものは聞かなかったことにして、そのまま外へ出た。 デート?そんなもんするわけない。大体相手も居ないのだ、そんなことを言うなら銀ちゃんが一緒に散歩に行ってくれればいいのに。 寒い冬はもう過ぎた。春は好きだ。きつい日差しもないし、花が咲く。 花は美しく、素直に綺麗だと思うのだ。

傘をさし、すたすたと1人で歩き続けた。 散歩、と言っておきながら何処に行くのか決めていなかった。散歩というのはそういうものだと思っていた。 でも、ふと考えて足を止めた。行く場所がないのかな、なんて思った。いや、違う。 何も考えていなかっただけだ、と自分に言い聞かせてまた歩き出した。 知らない人、知らない店、知らない猫が前を通り過ぎていく。 どれも普通の事だ、でも私が居た世界は狭いのかもしれないとまた変な事を考えてしまう。 もっと、大きな世界にでたほうがいいんじゃないか。でも、故郷から地球に来て、広い世界を1つ知る事が出来た。 この地球は想像以上に広いのに、でも私が知っている地球は狭い。でも銀ちゃんと一緒に居ると、一歩ずつ世界が広がっていく気がするのだ。 よくわからないな、と一人で首を傾けため息をついた。
「お嬢さん、お暇なら少し付き合ってくれやせんか?」
聞きなれた声。はっ、と顔をあげる。どこから現れたのだろう、全然気づかなかった。 彼は少しかがんで私の顔を見る。その顔はにんまりと笑っていて、何も考えないまま私は頷いた。
「どこ行くアルか」
「まぁ、ついてきたらわかりまさァ」
そして、あとをついて行った。だって、本当は何処へ行けばいいのかわからなかったから、ちょうどよかった。 何も喋らず、ただ黙々と歩き続ける。彼は何を考えているんだろう。


歩いていくうちに周りの景色は変わり、俯いていた顔をあげると、緑の草、大きな木、そこにある花。
「…綺麗」
そりゃよかった、と彼は笑う。 家の近くにも桜の木はあるが、もう少ししないと無理かなぁ、と新八が言っていたのを覚えている。 今、真上にある桜の木はもう何年もあるのだろう、木にはたくさんの傷がある。 本当に大きな木だ。たくさんの花びらが風が吹くたびにひらひらと舞う。 故郷にこんな美しい花はあっただろうか。ああ、本当に綺麗だ。
「もったいねぇなぁ、傘の下から桜を見るのは」
「でも日が当たるネ。しょうがな…」
「じゃあ、日が当たらなきゃいいんだろィ」
傘はいつの間にか彼が持っていて、手を握られる、離してとも言えず木の真下へ行く。 いきなりのことで、声も出なかった。こんな顔は見られたくないので、こっちを向くなとひたすら祈る。 手はとても優しく、この手で刀を振り回すなんてあまり想像できなかった。 ずるずると引っ張られながら私は真上の桜を見る。さっきよりも桜が目の前に広がる。 傘が無ければ、こんな風に明るい世界にいつも居れるのかなぁ、と思う。 手を握られたまま影に座り(もしかしたら気をつかってくれたのかも)、またぼぉっと桜を眺める。何度見ても飽きない。
「やっぱ綺麗でさァ」
「何がアル?」
「桜に決まってんだろィ」
桜、か。綺麗、その言葉に反応してしまう。珍しいと思った。いや、意外とも。 彼の口からその言葉が出ると、何だかもっとその花が綺麗に、美しく思える。 もしも、今の言葉が私に向けられたものだったら、と考えてしまった。 何これ、好きとか、そういうやつなの?いいや違う違う。いやでも認めたら楽になるかも。 馬鹿馬鹿しい、最後にそう思ってそんなことを考えるのはやめた。 ああ、この柔らかい花の様に、私の心も柔らかく、素直に思いを伝えることはできないだろうか。 でも好きなんて、何がどう好きとか、そんなものよくわからない。それに彼には嫌いと大嫌いとしか言ったことがない。そんな私が今さら何を言えばいいんだ。

そして彼は思いついたように、あぁ、でも、と呟いて
「あんた桜みてぇだなぁ」
「こんな綺麗なのになれるならなってみたいネ」
「でも、散られたら困りまさァ」
そう言って私の髪を触り、桜色、と言って笑った。距離が近い、髪に指が絡まる。 ありがとう、とそこで言えたらいいのに何も言えずに終ってしまった。私は何がしたいんだろう。
どうしたらいいのか、わからない。彼のことがよくわからない。
まっすぐに私に向けられた目を、見ることが出ない。
散りたくはない、ただ迷いもなく私は咲いていたいだけで。 過去に人を殺めた私がこの可憐な花のようになるなんて、難しい事だけれど。
真っ赤になった私の頬に彼はキスをして、優しく微笑むのだ。傘があれば顔だって、この隣に居る体を吹っ飛ばすことだってできるのに。 (素手でもやろうと思えばできるけど、どうも今はそんな気分にはなれない)傘がなければ、私は普通に生きていくことができたのだろうか。

結局ありがとうも好きも、大好きも何も言わないまま私はその日ずっと黙ったままだった。

(0220)