あの日へ

銀時が泣いたところなんて見たこと無い。多分、泣いたことはあるだろうけど見たことなんてなかった。 仮に銀時が泣いていたとして俺はどうすることもなくただ見ているだけだろう。銀時は泣く人間じゃない、俺の勝手な考えだ。 ただ、そう思っていたいがための。けどもうそんなことを考える必要は無い。そんなものはもう関係ないからだ。もう離れたんだ。
「ヅラと会った」
「いつだ」
「忘れた。一緒に戦わないかだとよ。会ったら毎回それだ」
雨の音と銀時の声が重なる。こんなにも奴の声は低かったのかと。
「誰と戦えばいいんだか」
何だよお前。俺にそんなことを言いにきたのか?ぱたぱたと降り始めた雨が銀時の髪を濡らしてゆく。
どくん、久しぶりに心臓が唸り、目が痛む。見たくない。今は、あの日と変わってしまった。
「どうしてこうなっちまったんだろーな。ほんと、それだけだよ」
嘲笑ってやろうと思った。情けなくなっちまったなと、笑えなかった。ただ見ることしか出来なかった。 銀時の肩が震えてた。雨が降っているから。顔は見えない。昔から気にしていた髪はうねりもせず顔を隠しているから。雨のせいだ。 伸ばせば届く。それは銀時ではない。俺は本当の銀時なんて知らないんだ。目の前にいる奴は幻のようで。
知っていたかった それは今でも 俺の知ってる銀時は、何だ?
皆から恐れられた刀を振る姿も食い物をとられて腹を立てる姿も亡き仲間の傍で屈む姿も(あのとき泣いてただろうか)知っているはずだ。 くだらない事で笑う姿だって。 雨雲が去る気配は無い。いつだって俺たちの場所は明るく照らされないのだ。どうしてだろう。 銀時は動くことなく俺の目の前に居る。どうしてだ。
「高杉、俺はお前が思うほど強くなんかねぇ」
剣も心もだ。クサい台詞だけは変わっていないようだ。何人もの仲間は死んでしまったけれど俺達は互いをどう思っていようが生きてる。 銀時の目を隠している髪の毛を引っ掴む。いてぇよ。力なく言われた声は聞こえないふりをした。 相変わらず生気のない目をしていた。顔に張り付いている水滴は雨に違いない。
銀時は泣かないんだ。