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灰色の雲にさよならを告げる もやもや、熱い。私の中でもやもや熱い固まりが動いている。 彼をみるとそれはさらに熱くなるし、銀ちゃんが私を子供として見ているときはそれは少しだけ熱くなる。 はやくその熱い固まりをどこかにやりたかった。今日こそは、今日こそは。そう思っていると彼に会った。いつもそう思うと彼に会う。 それからどうでもいい会話ばかりして、終いには殴りあいになったり、ちょっとしんみりしたり、と今までそんなことばかりだった。 「天気悪ィなァ」 「…そうネ」 「あのでかい犬は?」 「でかい犬じゃなくて定春アル!」 さだはる?と彼が聞き返す。そうヨ、と私は頷いた。 定春は家で銀ちゃんの見張りをしている。私と定春が散歩に行って、新八が買いものに行っている時に銀ちゃんはたまに居なくなる。 帰ってきたら必ず酒臭い。そしてお金もすっからかん。新八が今月やばいんだよこの天然パーマ!と叫んでいるのを聞いて(今月じゃなくて毎月アル、と突っ込みをいれたくなる)私は定春を留守番させたらどうか、と提案した。 定春には悪いが、ここは少し我慢してもらおうということで家においてきた。この出来事を一通り彼に話すとそりゃ大変だ、と笑っていた。 雨が降ってきた。ざあざあ、まだ優しい雨だった。彼は何ともいえない表情で私を見て、そういえば、と小さく言った。 熱い固まりがぐるりと体の中で一回転する。 「あんた旦那のことが好きでしょう?」 何だ、いきなり。何でいきなりそんなことを。私はすぐに首を横に振った。 否定しようと思えばいくらでもできるはずなのに声がでない。 私を見て彼はふぅん、と言って遠くを見ていた。その目が本当にどこか遠くへ行きそうで怖かった。 「俺はてっきりあんたは旦那のことが好きだと思ってましたけどねィ」 彼がそういった途端雨が凄い勢いで降ってきた。ぼたぼた、ばたばた。私の心みたいだった。今にも雷がなって全てを壊しそうな感じがした。 痛い、凄く痛い。一番言われるのが怖かったこの台詞。やっぱりそう思っていたんだ。でも私は、彼に対して何も言えなかった。 だって一瞬彼が凄く悲しそうな顔をした。もし、私が銀ちゃんのことを好きだとしても、それでもいい?なんて思ってしまった自分が最低だと思った。 でもそれは違う。今は違う。今は、凄く彼の名前を呼びたい。 びしょびしょに濡れた服、髪、それでも冷たいと思わない。熱くてしょうがない。 熱い固まりがこみ上げてくる。上へ上へと。その正体はよくわからなくてそれでもそれを口にする。 「好きヨ」 まさかこうさらりと言えるなんて。熱い固まりの正体はこれ。言った途端楽になった。雨が冷たいと思った。彼は目を丸くしていた。何だよ、旦那はどうした、みたいな感じの顔だった。 熱い固まりを吐き出したみたいだった。ああ、言ってしまった。ついに言ってしまった。 彼と目が合う。何を言われるのだろう、これでもう終った、なんて思っている私に向って、 「届かない恋より、届く恋にしたほうが幸せだと思いますぜ」 彼は少しだけ微笑む。その裏はきっと複雑な思いでいっぱいなのに。優しすぎて、酷い。 鼻の奥がつんとして目があつくなる。また泣いてしまった。弱いままだ、私。ぐしょぐしょの袖で顔を拭く。少しだけ痛い。それでも言わないといけないことがある。 「…そう思うなら、幸せにしてヨ」 憎たらしい言い方だ。でもそれだけ言うのが精一杯だった。もう何も言えないと思った。カシャン、という音がして、傘を落とした。気づけば抱きしめられていて恥ずかしくて嬉しくてどうしたらいいのかわからなくてでも少しだけ悲しい。 そして気がぬけた。自然に顔が笑顔になってしまう。何でィ、気持ち悪いなァと彼は少し体を離して言った。でもそんなことは気にしない。 うるさい、黙れの代わりにばくしょい!と思い切りくしゃみをしてやった。汚ねェ、という言葉も気にしない。 そう言っておきながら彼も笑っているからだ。 ねぇ私我儘だけど、それでもいい?寂しくて怖くてどうしようもない時は傍に居てくれる?甘い言葉はいらないから。私が1人じゃないということを思い出させてくれればいい。 ああ、私は私がこの人のことがこんなに大好きだということを知らなかった。雨はもうやんでいて、灰色の雲にさよならを言った。 |