いきなりみえるひと(ごちゃ混ぜ注意)



野良猫がやってきた。動物が好きな幼い女の子は喜んで猫のもとへかけよった。 するりと猫が女の子の体を通り抜けてゆく。
「アズミのこと、みえないの?」
「あたりまえだろ」
わかってんだろ、少年が冷たく言う。なにもそんな風に言わなくても、と思ったけれど事実なのだ。
「明神も、ヒメノも見えるのに、アズミと遊んでくれるのに、どうして」
ごめんね、私はその願いを叶えてあげられない。(私が謝る必要はない、でも悲しくなる)隣に居る少年はため息をつく。
「そんなこと言ったら明神が困るぞ」
少年は切り札の"明神"をだした。果たして明神さんは実際に言われたら困るだろうか。そして何て言うのだろう。 優しい彼のことだから少し困った顔をして俺がいっぱい遊んでやるから、とでも言うだろう。私は、何て言えばいいのか教えてほしい。 私は彼に頼りすぎているのかもしれない。少しは自分で考えなければいけない。(考えても、答えはでない) 女の子は頷く。ちゃんと、わかってるもん、小さな声で言って。私が考えて悩むほど、女の子は幼くはなかった。 私に何ができるのだろう。幽霊達の会話。私には、わかることのできない感情。
「ヒメノ、抱っこしてあげて」
「え、できるかなぁ」
そう言いながらも猫に近寄ってみる。これが私にできること。 手を伸ばして抱えようとすると、にゃあ、と一鳴き、そして爪で私の手の甲を引っ掻いて(可愛く鳴いたくせに!)、逃げてしまった。
「あーあ、嫌われちゃったかなぁ」
「野良猫だから仕方ないさ」
ブン、とバットを振る音が聞こえた。この音は誰にでも聞こえる。エージ、遊ぼう!と女の子は少年の背中にしがみつく。
(触れている)(彼らは、お互いに手を握り合うことが出来る)(それは彼らにとって何を意味するのだろう)(お互いを、確かめ合う?) (この世に存在しているという事を?)
私は少年がぶつぶつ言いながらも女の子を肩車しアパートの中に入っていくのを見ていた。少しだけ薄い、彼らの姿を。
手の甲から僅かに流れ落ちた赤の雫は、私が生きている証。

1201 姫乃とアズミとエージ



雪が降った。ただでさえ古いこのアパートは床がしめり、ぎしぎしと屋根が雪の重みに耐えられずに音をたてる。 冷蔵庫の中にいるみたいと言いながら彼女は部屋から持ち出してきた毛布に丸まりながらソファに座った。 勢いよく座ったのでぎしりと音が鳴る。彼女はその音には気にせずに寒いと言いながら口元に手をよせて、息をはく。(本来この仕草は家の中でやるもんじゃない)
「ひとりは寂しいから、おりてきたんです。誰かいるかなって思って」
「部屋のほうが暖かいだろうに」
「どっちも変わりませんよ」
ひとりで居るより誰かといたほうが暖かいでしょう、と彼女は笑った。 彼女が指す誰かは俺だけではなくて、今は外へと出かけている魂たちのことも含んでいる。 熱いお茶を湯飲みに注いで彼女に渡す。ありがとうございます、頭をさげてまた笑う。
「雪、まだ降ってますかね」
「さぁ、どうだろう」
彼女は持っていた湯飲みを置いて立ち上がった。どこへ行くのか尋ねてみると、ちょっと外の様子を見に、と玄関のほうへ向っていった。 とんとんとん、と足音がする。彼女みたいに軽ければ、床はきしまない。 急に静かに、寒くなる。誰かといたほうが暖かいでしょう、彼女の言葉を思い出した。確かに、その通りだった。 さて、まだ雪は降っているのだろうか。とりあえず彼女のあとを追うことにして、廊下を歩く。 冷たい風が流れこんできて、彼女が玄関の戸を開けて、立っているのが見えた。彼女の後ろに立つ。 風邪引くよ、といっても彼女は何も言わない。
「きれいないろ」
暖かい声。それと同時にふわりと白い息が宙を舞う。 彼女の視線の先には白い粒がぱらぱらと降っているだけで、俺はそれがきれいだと思うことはできなかった。けがれていない、真白。
「すきなんです」
急に言うもんだから何のことだか理解できなくて、言葉にならない変な声をだすと(情けない)、冬がですよ、と付け足された。
「寒いだけでいいことなんてないじゃないか」
「そりゃ、そうですけど。でも、そんなこと言わないでください」
彼女は俯く。俺は何て言っていいか分からなかっただけだ。 「あなたの季節なのに」
こんなときに彼女は俺の名前を思い出すのだ。ふわり。彼女の綺麗な長い黒の髪がなびく。彼女がこちらへ振り向く。 黒の瞳が、まっすぐこちらを見つめていて。 「冬悟さん」
ひどく優しい声、俺の名前じゃないみたいだ。あなたが、少しでも冬を好きになれますように、と彼女が呟く。雪はやまない。

1201 姫乃と冬悟




そのうち書き直したり増えたり消えたりするかもしれない。