さがせ、スピカを

「怒られるヨ、あの目つきの悪い奴に」
制服に煙草の匂いつけてるやつ(でも銀ちゃんとは違う匂い)名前が思い出せない。 終礼が終ると同時に掃除を手早く済ませさっさと帰っていた。大会前らしい。
「そう、大会前って言ってた、あいつ」
沖田の表情は少しむっとしたものに変わってしまい。何か悪い事でも言ったのだろうか。
「いいんでさァ、俺は別に。出るかどうかわかんねェし」
「もしこの現場に凄い顔して現れたら、」
「あの人はいつもおっかない顔なんでさァ、それに現れても別に放っておけばいい」
彼が握っていたはずの、シャープペンは姿を消し、変わりに丸い眼鏡が握られていた。(お気に入りなのに)
「割らないでネ」
「そりゃもう、大事に扱いまさァ」
近づく女だか男だかよくわからない顔。(あ、溺れそう)何だか、もう全部よくわからない。
「私もっと早く来ればよかった、あっちよりここの方がすき」
「嬉しいことを言ってくれるもんで」
揺れる前髪。一秒がこんなに長いものなのかと。あと数センチ。
「ここ、皆優しい。留学してよかったと思う、だってあっちは」
距離を縮める事に寸止めをかける私に沖田は不満を抱いたのか、表情が少し怖い。あと数ミリ。
「…怖い」
はぁ。ため息を目の前でつかれ吐き出された息がかかって目を伏せた。再び目をあければ沖田の息が前髪にかかった。
「どっちが、怖い」
「どっちも、ヨ」
遠くから走る音が聞こえる。耳元では舌打ちが聞こえ、湧き上がった熱は逃げていった。(放っておくって言ったくせに)
「でもあんたもやっぱ女だったんですねィ」
安心しやした、と笑いながら沖田は言う。確かに沖田が言ったとおり私は女だったと今更ながら思った。 ついに足音は消え、(きっと息でも整えているのだろう)扉が大きな音を立てて開かれ、怒鳴り声が聞こえてくると思いきや。
「おい、来いって言っただろ」
そう言って、沖田を睨んでから私の方を睨んで、中には入って来なかった。男の額には汗がうかび、強く竹刀が握られていた。隣に居る沖田とは全く違う姿。わかりやした、沖田の声はきっと男にも届いたであろう。 向き合わせていた机を元通りにして(ノート提出もういいや)電気を消した。沖田の横顔が拗ねた子供みたいな顔だったのでなんだか申し訳なく思ったので
「待たないから」
と言ったら鞄を引っ掴んで出て行こうとした彼の動きが一瞬だけ止まった。丸い瞳はさらに丸く。(ここで待つと言えない、私は)廊下で待ち構えていた男にいちゃこくんじゃねーよ、沖田の頭は叩かれ。 (思い出した)(土方)(鬼の土方副部長!) 鈍い音が廊下に響いた。