その小さな手に握り締めるものは

「ねぇ、銀ちゃん」
ぼんやりと暗い影が目の前にあって、思わず驚いてしまう。夏だし幽霊でも出たと思った。 わさわさと揺すられる。いつもの明るい声も無く、ただ。今にも泣きそうな声があった。
「なんだ、お前まだ起きてたのか」
「私、たくさん人殺したネ」
え?と思わず聞き返しそうになる。なんだ、いきなり。 部屋なんかもう真っ暗でもう寝ようかという時に、ポツリと言ったもんだから思わず焦ってしまい、何も言う事が出来なかった。
「何人も、殺したヨ」
夜が怖い、とガキみたいなこといって(まぁガキだけど)グスグス言うものだからどうしようかと頭を回転させた。 本当は、俺だって夜は好きじゃない(いい年して情けないと思うけど)悪夢、嫌な汗、赤に染まる手。昼寝は好きだけど、それは別だ。 なんだか重苦しい空気になっちまった。起きた方がいいんだか、そのまま寝てたほうがいいんだかわからなくなる。
「外行こう、銀ちゃん」
何でまた外に、と思ったけど何て言ったらいいのかもわからなかったので外へ行く事にした。 重苦しい空気の中起きていてもしょうがない。
「早く!」
さっきまであんなに泣きそうだったのに、明るい声で。少し安心する。 わぁ、と小さく神楽が呟いた。目の前は星だらけ。本当にこんな夜は珍しく、俺自身も驚いた。 「綺麗アル!」
あー、とよくわからない声を俺はだした。ひゃっほう!と浮かれている神楽を見てなんだか起きたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。 でも確かに綺麗で、見て良かったとは思う。こういういうのもいいなァ、なんて思った瞬間に生暖かい風が吹く。台無しだ。 そしてさっき神楽が言ったことを思い出す。何人も殺した、と。

「死んだやつは、星になるんだと」
「ほんとに?」
「いや、本当かどうかわからねぇけど」
「本当じゃないと信じれないアル」
「少なくとも俺はそう思ってるんだけど」
「意外にロマンチストなのネ、銀ちゃんも」

意外って…と思ったがそれもしょうがない。どうせ俺はそんなに若くねーよ。 死んだ奴は星になる、本当かどうかはわからない。ただ俺自身に言い聞かせた言葉かもしれない。

「あんな綺麗に皆光るアルか」
「そりゃ生前いい行いをしたやつしか光れないだろ」
「じゃあ私はあの真っ暗な空になるアルか」
「さぁ、どうだか。まぁ俺もそうなるかもしれないしな」

沈黙。これでまた泣かれたらどうしよう。ていうか泣くのかこいつは。 さて、どうしようか。これ以上長くごたごたするのも正直面倒くさい、というか眠い。 それにあまりこういう話はしたくないのだ。こういう話をするとこいつは決まって暗い顔をする。わざわざ俺からそんな顔をさせるようなことはしたくはない。

「あの中に私が殺した人も居るアルか」
「あぁ。まだ言ってんのか」
「だって、謝っても何をしても許してもらえないヨ」
「もういいじゃねぇか、風邪引くから入んぞ、ほれ」
「えぇー夏なのに?」

その問いかけを俺は無視する。これ以上いろいろと聞かれて答えてそれが確かな答えなのかわからないからだ。 ほら、と手を差し出すと握ってきた手はとても小さく。 その小さな手で殺しをやってきたなんてちっとも思えない。 そんな小さな手に、たくさんのものが圧し掛かるなんて、と考えるととても辛い。 年月が経っても罪の重さなんて変わるわけない。 俺は、何年経っても死んでしまった仲間や切り倒した奴のことを思い出すことがある。 そんな小さな手に、たくさんの奴の事握り締めるのはもう少し後でもいいだろ、と俺は勝手に思う。

「銀ちゃん銀ちゃん」
「なんだよ、もう行かねーぞ」
「違うヨ、おやすみなさーい」
「…はいはい」

こりゃ寝不足だな。きっと新八が叩き起こしにくるから寝坊の心配なんてない。 早く寝よう、と布団の上にダイブ。そして眠りに落ちる3秒前、怖いときは呼んでくれればいい、と心の中で言って。