あなたを誰が奪ったというの

無理して笑わなくてもいいと言ったのは誰かで。楽しいときに笑えばいいといってくれたのも誰かで。 そのとき私は凄く暖かい気持ちになったのを覚えている。 泣いてはいけない、とその場で涙をこらえようとしたけど、それでも私は泣いてしまった。 そんな私を見て小さい子をあやすように髪を撫でてくれる、その人たちのようになりたいと思った。 多くの人を傷つけた私にそんなことができるのか、と彼らに問うてみると笑って頷いてくれた。

「泣かないアルか?」
「なんでェ、急に」

そう言われて私は何て言えばいいのかわからなくて、なんとなく、と呟いた。 ふぅん、とどうでもよさそうな感じの返事が返ってくる。 次に話すことが見つからなかったので、数メートル先に居る定春の揺れる尻尾を見ていた。暇だなぁ。
「泣かないだけかもしれねぇし、泣けないだけかもしんねぇしなァ」
「…へぇ」
いきなり話が始まったのでぼんやりしていた頭はすぐに話しに追いつかない。 それでも、そうかもしれないなぁなんて思いながら軽く返事をする。
「例えば、あんたは自分の過去を思い出しては泣いた事があるだろィ?」
「そりゃ何回かは、」
「俺にはそれがないんでさァ。斬りすぎてもうよくわかんねぇや」 笑えばいいのに。泣けばいいのに。できる事なら一緒に。
「泣けないのなら笑ってヨ」
「何でィ気色悪い」
「何か嫌ヨ」
何かおかしい。彼は普通に笑っていて、そう、それは普通の笑顔であるはずなのに。 どこかおかしいと思うのは私だけだろうか。

「お前感情表すの下手アル、たぶん」
「へぇ、そりゃ俺も知らなかったなァ」
「私感情表すの得意。嫌なくらい。押さえ切れないときもあるくらいアル」

ふぅん、と彼は頷いた。私は何を言っているのだろう。けれど言いたいことがあった。言っておきたいことがあった。
「だから私が代わりに笑ったり泣いたりしてあげるヨ。それで楽になれるとかよくいうネ」
私は何故彼のためにそれをしたいのかがわからないけど、ただしたいと思ったからそう言った。理由なんか必要ない。
「…そりゃどうも」
そう言って笑う彼の顔がほんの少しだけ優しくみえた。この優しい彼を、笑顔を、涙を、誰が奪ったというのだろう。