秋田の冬は寒い。覚悟はしていたけれど、想像以上に寒かった。体を温めてから寝るように心掛けてはいるものの、結局寝つけず本に手を出してしまう。 暖かい眠りにつきたいと思っていたのはどうやら俺だけではないようで、布団をかぶって部屋にやってきた敦の“とってもかしこい案”を試してみることにした。 内容は敦が寝るときに足をでるのが嫌だから、布団を2枚ずらして重ねたらいいのではないかというものだった。脹脛あたりの布団の上に、もう一枚布団をかぶせると、 「かしこいでしょー」と言って満足げに布団の中に入ってきた。消してもいいなんて言ってもいないのに読書灯を消されたけれど、文句を言っても聞かないので、文庫本を後ろの棚に追いやった。 半分起こしていた体を布団の中に沈めると、やはり男2人にこのベッドは小さいらしく肩がぶつかった。2メートルの男と並んで寝るのには無理がある。
「んー…じゃあ、こうする?」
天井を見ていた敦がぐるりと方向を変えて壁側にいる俺の方をみる。 布団も同時にごそりと動いて開いた隙間から冷たい空気が入ってくる。それも一瞬のことでやはり足元に布団を2枚というのはなかなかかしこい案だと思った。
「そんで、こう…したら?せまい?」
背中に手が通る。ギギっとベッドが軋んで二人で顔を見合わせた。なんだか抱き枕にされてる気分だ。
「…潰されないかが心配だよ、あとベッドも心配だ」
「オレ、寝相悪くないから大丈夫だよ」
敦の首に手を回すと「室ちん指冷たい」と首を動かされた。裾が上がったスウェットから出ている脹脛の部分に爪先をあてても「冷たい冷たい」と言った。大きなこどもはとってもかわいい。 あったかい。少しでも動けばベッドがあやしい音をたてるのでお互いあまり動きはしなかった。
「あったかい?」
「……うん」
「ねむくなってきた?」
「………うん」
そう、敦、いいところだから髪は触らないでくれ。あともうちょっとで眠れそうなんだから。いつも冷えていた指先も爪先も今日はあたたかい。おかげで、深い眠りにつけそうだから感謝するよ。 言葉にするのは面倒で、代わりに頬にすり寄ってみても、敦は話すのを止めない。ねぇ、室ちん。俺、そんなんでだまされないんだから、と余計に目を覚まさせてしまうだけになってしまった。

「明日午前練だよね?」
「………………うん」
「…あ、午後だっけ?」
「………………………んん」
「…返事テキトーだし」
「っ、こら、噛むな」

だって、構ってくれないのが悪いしーと背に回っている腕に力が込められる。珍しく甘えただなと、眠りに入りそうな頭の中で思う。
「敦、寝つきいいだろう?俺は悪いから寝れるときに寝ときたいんだよ」
「それ自分勝手ってやつじゃん」
「うん、ごめんな」
体をずらして額にキスしてやると、ぱちりと敦の目が瞬いた。はらはらと髪が降ってきて肩に顔を埋められる。 人肌はなんていいのだろう。誰かと距離を縮めるなんて、もういいのだと思っていたのに。人工的な熱よりも暖かくて心地よい。とろりとした睡魔を運んで来てくれる。
「ねー…もう一回」
「…………もうおしまい」
お願いだから。もう今日はこれでおしまいにするから。耳元で囁く声は、眠気を飛ばすことがないように大きさを抑えてくれている。 しょうがないな、と心の中で思って、首を動かすと、満足そうに笑みを浮かべた。どうやら、甘やかすときの顔を見抜いているらしい。 もう一度唇を落とすと、お返しだよ、と頬にキスをされる。

「だいすきだよ」

するりと髪を、背を撫でられる。甘やかしているようで、甘やかされているのかもしれない。できることなら、溢れそうな暖かさを、閉じ込めてしまいたい。

「本当だよ」

俺もだよ、大好きだよ、本当だよ。 ちゃんと言えたらいいのだけれど。唇がうまく動かずに、暖かさに溺れていく。 敦、大好きだよ、本当だよ。だって、この蕩けそうな温もりを手放したくないって、思ってるんだ。

20120912 眠りのキス (Wエースの日!)